東洋哲学研究室 教員紹介

森 由利亜

専門分野

中国近世道教・神仙信仰

自己紹介

 

中国の伝統的な宗教について、日本の一般社会ではまだまだ理解が進んでいないように思います。一般に流布する中国的伝統に対するイメージからは想像しにくいかもしれませんが、 道教や神仙信仰には罪の意識を基礎とする倫理的特性、救劫論に見える預言宗教的な特性など、一面において(たとえば)キリスト教の中に人々が発見しがちな特性が、 しかし(たとえば)キリスト教等とは非常に異なる仕方で確認できます。中国の宗教を考えることで、世界の宗教に対する私たちのとらえかたを問い直すようなきっかけになればよいと考えています。
   また、中国社会における自治と倫理的な意志との関連などについても見ていきたいと思っています。近代の中で想定されがちだった、西欧優越的な観点に対して、よりローカルな観点から、 同時により普遍的に、人類の価値観や倫理観、哲学のありかたを問うことを基本姿勢にしたいと思います。
   研究上の専門分野は、中国宋代以降、特に明清期の道教、神仙信仰、全真教等を中心に、宗教の正統性と継承に関する研究を行っています。
   学部では、文化構想学部を担当しているため、東哲学部生の皆さんとの接点が少ないことは残念ですが、学部生のための漢文読書会(「『荘子』郭象注を読む」)もスタートさせましたので、興味のある方はどうぞ気軽にお越し下さい。

主要著作・論文

 
題名 収録刊行物出版者 出版年 備考
「全真教龍門派系譜考―『金蓋心灯』に記された龍門派の系譜に関する問題点について」 道教文化研究会編『道教文化への展望』 平河出版社 1994
「『太乙金華宗旨』の成立と変遷」 『東洋の思想と宗教』15 1998
「呂洞賓と全真教―清朝湖州金蓋山の事例を中心に」 野口鐵郎編集代表『講座 道教』第1巻(砂山稔・尾崎正治・菊池章太編『道教の神々と経典』) 雄山閣出版 1999
ほか多数。

東哲進学希望者へ

冷戦構造が崩壊した現代「日本」社会においては、まさに「哲学」こそが問われています。経済成長の神話が消え、 「明日は儲かる」という一点に利害の共有や政策決定の基礎を置けるような時代が過ぎ去ってから随分久しい歳月が経過しました。にもかかわらず、 デフレ以降の「日本」ではまだ今とこれからのための価値の共有をはかれないどころか、戦後共有してきたかに見える平和や立憲主義の価値や理念の共有すら覚束ないようなありさまです。 経済も外交もエネルギー政策も、暮らしのありようも、「私たち」にとって何が幸福であるのか、何が善きものであるのかを問うことの上に成り立つはずですが、 どうも「私たち」はそのような幸福を考えるための哲学的思索を互いに論じる(=共有する)努力を怠ってきたようです。
   「日本」や「インド」や「中国」等のアジア諸地域で、私たちの先人はどのような価値や観点を開発してきたのでしょうか? 近代化する以前からの思索の積み重ねの上に、 今の「アジア」の基本的な意識や構えがあるのなら、今こそそれを見つめて、問い直すべき時です。自分たちは「どこから」ここにやってきたのか、それがわからなければ、 これから進もうとしている道が、過去なのか未来なのか、普遍なのか特殊なのかさえわからないのです。 皆さんとアジアの伝統哲学を学ぶことで、本当の未来について考えたいのです。